赤い花のお話
「今日の雲はなんだかちょっとくさいよ!」
と今年買ってもらったばかりの新しい靴をトントンと鳴らしながら歩いていたマラドーナ君は、急に立ち止まって怪訝そうな顔をしています。
お友達の猿轡(さるぐつわ)君には、マラドーナ君が言っていることが理解できなかったので、話を流そうとしました。
すると、今、話を流そうとしたでしょ!とマラドーナ君は目にいっぱいの涙を浮かべて泣き始めました。
それは、マラドーナ君が友達の神様と他人の仏様と遊んだときのことです。
他人の仏様がマラドーナ君の顔を見るなり、くさい雲を見つけたときに君の大切な人が逝ってしまうよ…と小さな赤い花を折りながら言いました。
他人の仏様は更に、続けて言いました。
くさい雲は君が一番幸せな時にもくもくと幸せそうに出る、と。
今日は、マラドーナ君にとって、とても幸せな日になるはずでした。
今日はマラドーナ君のお母さんが退院する日なのです。
マラドーナ君のお母さんは2年前に、病気で入院しました。
病院はとても遠いところにあったので、お見舞いにもいけず寂しくしていたマラドーナ君は逢える日をとても楽しみにしていました。
その幸せな日にくさい雲が出ていたのです。
マラドーナ君は本当に悲しくてしかたがありません。
大好きなお母さんと逢える日に大切な誰かが死んでしまう。
そう考えると青い空が水の中に沈んでいくのでした。
マラドーナ君はしばらく涙で埋まった目で空を眺めていましたが、ふいに涙を長い青の袖でふいて、猿轡君をおいて走っていきました。
待ってよー何だよー。どうしたってんだよー、と猿轡君はマラドーナ君を追いかけましたがマラドーナ君の思いに押されて猿轡君はとうとう追いつくことはできませんでした。
マラドーナ君は、分かったのです。
大切な人が誰なのかが。
お母さんという名の居心地の良い膝の上は、もしかしたら消えてしまうのかもしれないのです。
夢の中でしか歌ってくれないお母さんになんか、ならないで欲しい。
涙は次から次へと流れていきます。
その時でした。
暮れていく空の中に大きなシャボン玉が小さなシャボン玉をいくつも連れて流れていきました。
マラドーナ君は、涙も出なくなりました。
今はもう、自分の息だけが聞こえてきて、悲しいのに心は飛び跳ねています。
部屋の真ん中には、折れた赤い花が落ちていました。
あの時、他人の仏様が折った花と同じ花でした。
マラドーナ君がその花に触れると、マラドーナ君はひとりになりました。
赤い花がシャボン玉に変わると、マラドーナ君は濡れたまま飛んでいきました。
マラドーナ君はお母さんと一緒に花になりました。
今は、風に吹かれて揺れています。
《おしまい》
※storyTOPに戻りたくなった。